MAKE MORE NOISE OF YOU
心臓の鼓動よりもたしかな生命の音を探してる
あの日 あっけなくあなたがすり抜けていったから
奇跡も魔法もつかえない
せかいの悲しみをただ見つめて泣いている
そうして雨が降り海になる
この星の神さまはとても優しい
そして神さまはなにもできない
愛は都合よくは降り注いではくれない
銃声はいつだって鳴り止まない
せかいの終わりはきみのためにはこない
だから いますぐ鳴らして きみのいのちをいますぐ鳴らして
MAKE MORE NOISE OF YOU
泣きじゃくってわめいて愛を探していのちを燃やして鳴らしつくしてよ
ひとつ残らずぼくをあげるから きみと分け合った心臓だから
MAKE MORE NOISE OF YOU
歪んだのはきみの毎日 ゆめのなかで刺された傷口で失血死
朝は真っ赤に腫れ上がる あんなに痛かったはずなのに
現実閉ざされた部屋スリーアウトチェンジ しょうもなかった恋に腫れ上がる
あんなに愛してたはずなのに 引きちぎれそうなの
中途半端な不感症 中途半端なファンタズム
中央線飛び込めなかったよってきみは泣かない
鳴らして いますぐ鳴らして
きみの涙も きみの毎日も 全部詰め込んでいますぐ鳴らして
ディストーション きみのいのちをいますぐ鳴らして
ディストーション ぼくと分け合った心臓で脈を打って
ディストーション 光ったいま いま 一瞬を掴んで
ディストーション ぼくと分け合った心臓で脈を打って
歪んだのはぼくらのこの街
生活をひとつずつ持ちよって隠したネオン街
夜を照らして見えなくなったブラックホール
中途半端な不感症
中途半端なファンタズム
中央線飛び込めなかったよってきみは泣かない
鳴らして
いますぐ鳴らして
ディストーション きみのいのちをいますぐ鳴らして
ディストーション ぼくと分け合った心臓で脈を打って
ディストーション 光ったいま いま 一瞬を掴んで
ディストーション ぼくと分け合った心臓で脈を打って
鳴らして
いますぐ鳴らして
ぼくを最終兵器にしたのはきみさ
意味や理由はぼくもわからないけれど
きみの涙ひとつひとつ集めて祈る
ぼくときみとで刻んでよ記憶
それだけで心臓が脈打つような愛にしよう
見つめあえたらここが宇宙
一晩で消えちゃう生命の記録
アンダーグラウンド 呼吸を教えて
アンダーグラウンド いのちを燃やして
きみの愛や恋がぼくを「ほんとう」にした
甘ったるいラブソングじゃないきみのうた
疑いようもないくらい生きてる
それだけで心臓が脈打つ
ぼくはうたをうたって「きみ」を証明する
たったひとつのいのちを祈る!
見つめあえたらここが宇宙
一晩で消えちゃう生命の記録
アンダーグラウンド 呼吸を教えて
鳴り響いたらここが宇宙
一瞬のかがやきを永遠に更新
アンダーグラウンド いのちを燃やして
ぼくの孤独がきみと出会った夜
またたきくらいの宇宙が生まれた
春一番がぼくの声
だからひとつもきき逃さないでいて
一瞬の宇宙を積み重ねたら凍えた星にもうたが咲くの
光って あおく光って
ぼくが死んでもいのちは消えない
だから光って あおく光って
きみを灯して宇宙を手に入れて
きみの孤独がぼくと出会った夜
またたきくらいの宇宙が生まれた
氷漬けのきみのこころが泣きだして
それでもせかいは冬だった
春一番がぼくの声
きみのたましいを揺らすおんがくの光
ぼくが死んでもいのちは消えない
きみのうたは誰にもかき消せない
光って あおく光って
ぼくが死んでもいのちは消えない
だから光って あおく光って
きみを灯して宇宙を手に入れて
光って あおく光って
ぼくが死んでもいのちは消えない
きみの愛はなににも汚されない
春は永遠に鳴り止まない
光って あおく光って
きみを灯して宇宙を手に入れて
きみのうたは誰にもかき消せない
春は永遠に鳴り止まない
なにもわからないふりをしてたらなにもわからなくなってしまってた
それでも それでもぼくらは 海を知っていた
温度は36度8分で刻んだビートで内緒話をしてた
金木犀 教室で香って 金属製の心臓を隠した
ユー・エフ・オーの軌道にのって
永遠19歳のままの逃避行
ぼくらベイビーブルーに銀河を塗って
いつもほんとうの神さまを探した
分け合ったイヤホン 無音のまま 心臓もはんぶんこにしたの
ぼくだけの宇宙 きみだけの透明な海
温度は36度8分で刻んだビートで内緒話をしてた
ティーンエイジ 重ねた心電図
ずっとそのままでいれたらよかった
ユー・エフ・オーの軌道にのって
永遠19歳のままの逃避行
ぼくらベイビーブルーに銀河を塗って
いつもほんとうの神さまを探した
だけど焼けた野原で息をたしかめたあの日からぼくはぼくのいのちを知る
どれだけ抱きあっても溶けあえやしないけどくだらない話をしようよ
ユー・エフ・オーの軌道にのって
白昼夢よりたしかなゆめをみる
ぼくらベイビーブルーの銀河の果てで
ロストプラネット 愛を探そう
愛を探そう
ああ ああ ああ ああ あ! せかいをとりかえしておくれベイベー
ぼくがぼくの孤独を愛した日 せかいは初めてぼくのものだった
正しい呼吸のしかたでぼくは生命をうたっていた
神さまが死んだ日もせかいは終わらなかった それがすべて
使い捨てのこころに慣れきったこの星にぼくら 産み落とされた
焼け野原はゆめを見ない きみはきみの瞳のうつくしさを知らない
雲の火ばなが降りそそぐ この街の真ん中で叫んでくれよ
ああ ああ ああ ああ あ! せかいをとりかえしておくれベイベー
きみがきみの孤独を愛した日 せかいは初めてきみのものになる
正しい呼吸のしかたで春一番がやってくる
神さまが死んだ日もせかいは終わらなかった
そして今日も誰かの神さまが死ぬんだろう
戦場はそこら中にあるんだ
きみの瞳にねむる星のかけらをひとつずつうたうよ
だからきみのよろこびも悲しみもきみだけのものだって叫んでくれよ
ああ ああ ああ ああ あ! せかいをとりかえしておくれベイベー
あの子が死んだのもミサイルが飛ぶのも魔法がつかえないのも
きっといつもこの星や誰かやなにかや神さまのせいにして使い捨ててきた
ぼくの弱さもきみのさみしさも誰かの価値なんかじゃない
それはただそこに在るということ それはたぶん産み落とされたということ
生きるということ 生きているということ
きみがいまここで生きているんだって叫んでくれよ
ああ ああ ああ ああ あ! せかいをとりかえしておくれベイベー
夜を泳いでた たったひとつでいいから天国を探してた
なんにも知らないことすら知らないまま
夜を泳いでた 朝がくすぶり出す頃きみを見つけた
光のなかに立っていたきみは この世の誰よりさみしかった
ひとみの奥と奥 見せ合いっこ 空っぽに詰め込んだ恋は透明
いつもロックンロールの話をして確かめあっては指切りした
はんぶんこの心臓 信じてるずっと 誰よりきれいなきみのこと
抱きしめあったつもりでいたけど ぼくら自分を抱きしめてたんだ
ワンダー・ワンダー 真っ黒い海で鳴らした
ワンダー・ワンダー きみも神さまを呼んでいた
ワンダー・ワンダー 真っ黒い海で鳴らした
ワンダー・ワンダー 同じ孤独を抱きしめてるよ
夜を泳いでた きみと手を繋いでそこら中
とっちらかった宇宙のかけらを集めた
夜を泳いでた 朝がくすぶり出す頃せかいを見つけた
焼けただれたこの星の呼吸が この世のなによりきれいだった
記憶の奥と奥 結びついたら ぼくを生き延ばす愛が透明
さようならのむこうがわであいたい きっと同じ夜を信じてる
はんぶんこの心臓 脈打ってるずっと ぼくやきみの根っこのとこで
寝ぼけたせかいにミサイルが飛んで神さまが砕け散ったから
ワンダー・ワンダー 真っ黒い海で鳴らした
ワンダー・ワンダー きみも神さまを呼んでいた
ワンダー・ワンダー 真っ黒い海で鳴らした
ワンダー・ワンダー 同じ孤独を抱きしめてるよ
ずっと一緒にいられたかななんてたまに思い出したりしないで
あのたった一瞬がぼくを生き延ばすから 鳴らしてるから
この世の誰よりさみしいままで きれいなままでぼくもきっといられるよ
きみはワンダー・ワンダー
ぼくの永遠のワンダー・ワンダー
わたしがするように誰かはきみを愛さないなんてうたがわたしのすべてで
きみの住むアパートの隣の家の猫がすきだった ナインティーン
この世の悲しさとさみしさを反射した海のほとりでいつも泣いていたきみの
そのやさしさに追いつきたくて息を切らした
エゴイスティックなからだが嫌いでそれなのにこころは真っ白で
立ちすくんだわたしの前をせかいはいつも通り過ぎていった ナインティーン
きみは毎晩せかいに飲み込まれてぼろぼろになって
それでもうたをうたっていたきみはこの世の誰よりやさしかった
愛だった 愛だった そしてそれは永遠だった
鳴り止まない脈拍 ぼくの 心臓のなかでずっと生き続けてんだ
引き裂かれて死んだあのひとのためにきみが泣いてくれた夜にわたしは
わたしのなかのぼくを 銀河の果てで見つけた ナインティーン
きみと出会ったこと 恋をしたこと ともし火が燃えている
この胸のなかでなによりやさしく燃えているんだ
愛だった 愛だった そしてそれは永遠だった
鳴り止まない脈拍 ぼくの 心臓のなかでずっと生き続けてんだ
愛だった
弱くてごめんねって泣きじゃくって投げたカッターナイフ
きみを殺してかたちもなく消えた 陽炎みたいに
暑くて溶けたアイスに見向きもしないで
140字のためらい傷を見せびらかすのに必死だったんだ
なまくらなこころが鈍器になってきみを殴り倒して
透明な血液が染み出した 朝焼けみたいに
泣きだした声がきこえもしなくて
冷え切った部屋からただれたせかいを眺めた 永遠の夏休みのなかで
大震災の夜でさえぼくは孤独を知らなかった
守られたサマー 照りつけた朝陽がぼくのエゴを焼き尽くすんだ
なんでもない日の夜明け前きみはひとりぼっちで死んでいった
黄昏たころに思い知った きみのさみしい瞳のこと
セブンスヘブンを抜け出してあの角を曲がっても消えないでいるよ
甘ったれたぼくの青春やこの部屋やきみに背負わせた天国のこと ずっと忘れない
きみみたいな誰かが死んじゃわないようにうたをうたっているんだよ
ただれたせかいの真ん中でずっとゆめをみよう
瞬間でもない まぼろしでもない このばかみたいなせかいの真ん中で
ぼくの孤独もきみのさみしさもわかりあわなくていいからおなじゆめをみよう
大震災の夜でさえぼくは孤独を知らなかった
守られたサマー 照りつけた朝陽がぼくのエゴを焼き尽くすんだ
なんでもない日の夜明け前きみはひとりぼっちで死んでいった
黄昏たころに思い知った きみのさみしい瞳のこと
なんにも知らずに毛布にくるまって笑いあっていた 背中に羽が生えてるって信じていた
ばかなせかいに見えないだけだって ふたりぼっちでいいと思っていた 天国が壊れてしまうまで
神さまにさようなら いつかぼくのほんとうの名前を忘れてしまっても
金木犀のにおいだけは忘れないでいて
ぼくのエゴを切り裂く音量 イヤホンで塞いでしまえ
とうとうとがらくた吐き出す街宣車 きみのうたを邪魔するんだ連夜
氷点下の夜 凍てつくきみは 灯した気持ちに点火してんだ
エンターキー押したら フェンダー歪ませて鳴らせストラトキャスター
鳴り止まないサーカスナイト
闇夜に迷子のぼくをその口づけが変えるモーメント
きみのいのちは そう パーマネント
ロックンロールは死なない
アインシュタインも知らない
速度できみは生き延ばす
その1秒にぼくは身を捧ぐ
犯した罪の重さ 溶かした海の底は 真っ黒に渦巻いたぼくの瞳のようさ
波が飲み込む 愛はかじかむ ぜんぶ還してそうして巡る
いのちになって漂って ぼくはただ祈るのさ
ぼくが壊した地球を抱いてうたいたい
今日を生きられないあなたと飛び込むトゥモローランド
鳴り止まないサーカスナイト
闇夜に迷子のぼくをその口づけが変えるモーメント
きみのいのちは そう パーマネント
これがぼくのページェント
ロックンロールは死なない
アインシュタインも知らない
速度できみは生き延ばす
その1秒にぼくは身を捧ぐ
「弱くてごめんなさい」と謝られたことがある。
それは、音楽を含め表現全般をつくる人間にはありがちなことがはじまりだった。世の中には、「Aの真似」とか「Aのパクリ」とか、自分が感じただけのことをわざわざ悪意で以って伝えてくる見知らぬ他人がいる。ざっくり言うと「パクリにきこえるのは耳が肥えてないだけだと思うし、ましてや音楽以外の要素で悪意を以って他人を傷つけようとするのは浅ましいと思う」ということを、わたしはその向かってきた悪意に対し発言した。わたしは悪意に対し、自分の身体と精神の範囲で可能なところまで無視をしないようにしよう、逃げないようにしよう、と考えているからである。
ところが、わたしがどこの誰とも知らない悪意に向き合っていると、その「A」自体が第三者を通じて「傷ついた」と伝えてきた。わたしは正直、その「傷ついた」という感情がまったく理解できなかった。Aを非難したわけでも、中傷したわけでもない。ただ、Aとわたしの音楽が似通って聞こえるのは、明らかにきいてきた音楽の範囲が狭すぎるか数が少なすぎるのではないか、ということを発言しただけだったからである。
強さと弱さは、ひとつの精神のベクトルで語られることが多いように思う。しかし、わたしはその考えが嫌いだ。ひとりの人間の持ち得るひとつの精神には、強い部分も弱い部分もあって、たとえば恋愛関係においては忍耐力のある人間が、家族関係においては向き合うことも不可能なほど耐性がなかったりする。自分の感情や強さや弱さは、当然自分にとっては絶対だし絶対であるべきだが、その絶対性を他人に強制した瞬間にそれは暴力へと変わる。
自分が感じている気持ちを、そっくりそのまま他人が感じて理解することなど人間にはできない。だから、Aが傷ついた気持ちも理由もわからなかったし、推し量ることもわたしの想像力では不可能だった。わたしはわたしに向かってきた悪意と逃げないで向き合っていたかっただけだ、とAに伝え、理由も気持ちもわからないこと、そしてその発言でAが傷ついたのであれば謝るし今後それについての発言は控える、と伝えた。わたしにとって、悪意と向き合うことは絶対の強さだけれど、それが他人にとっては絶対ではないとも思う、しかし申し訳ないがあなたの感情もわたしにとっては絶対ではないのだとも思う、と。
可能な限りわかりやすく説明したつもりだったし、誠実に言葉を尽くして対応したつもりだった。しかし、わたしはそのひとつも意味が通じていなかったと思い知ることになる。それが、「弱くてごめんなさい」という言葉である。
「弱くてごめんなさい」ということは裏返せば「あなたは強くていいですよね」ということだし、「わたしはこんなに弱くてかわいそうなんです。誰がどう言おうと絶対に」ということである。自分の弱くてかわいそうな部分がそのひとにとっては絶対で、その絶対性をわたしに強制するのだな、とわたしは一瞬で絶望した。
わたしは絶対的に常に強い存在なのではない。というかそんな人間は存在し得ない。このひとは、わたしが強く在ろうと一瞬一瞬を努めて生きているそのことをいまここでなかったことにしたのだな、と思った。それは絶望そのものであったし、そのひとが音楽をつくる人間であったことや、なかったことにするなんて「そんなつもりじゃなくて」発言したであろうことが、より一層わたしを深く絶望させた。
悲しいけれど「なかったことにされる」ということは日常でわりと頻繁に起こるし、その絶望と断絶をひとつひとつ抱えながらわたしたちは生きている。その一瞬の絶望はいつも自分にとってだけ絶対で、そのことに耐えたり耐えられなかったり向き合ったり逃げたりしながら、それでも生きる。
しかし「弱くてごめんなさい」という言葉は、わたしをとくべつ深く絶望させた。その理由を1年弱ほど考えて、ようやくわたしはそれがわかったのだった。わたしは、過去にそういうふうにひとを傷つけてしまったことがあるのだ。しかも、同じように「そんなつもりじゃなくて」。
無意識の暴力ほどタチの悪いものはない。悪意があってひとを傷つけるほうが、よっぽどマシだ。「そんなつもりじゃなくて」傷つけてしまったひとに気がつくたび、わたしはいつもとりかえしのつかないことをしてしまった、と自分の鈍感さを呪い、ひどく苛まれる。それでも、ひとつひとつをなかったことにしないように、気がつくたびにしてきたつもりだ。それは、ロックンロールがいつも、わたしのどの感情もなかったことにしないでいてくれたからだ。
自分の感情が自分にとってしか絶対性を発揮しないということは、孤独そのものである。しかしわたしは、わたしたち自身がそれを受け入れる必要があると思う。わたしたちは、孤独であること、断絶されたひとつの個体であることを受け入れてはじめて、正しく一緒にいることができるのではないか、と思うのだ。
わかりあえないことが、人間にはきっとある。それでも同じ地平線に生きるためには、わたしたちはひとつの個体としての各々の孤独を認識することが必要なのだとわたしは思う。
音楽がそれを教えてくれたように、今度はわたしが音楽そのものになって、また必要な誰かのもとへ届くようにしたいと思う。ひとりでも多くのひとが、真実ひとりぼっちで死んでいくことのないように。
その日、わたしは高校生だった。春休み前の、たしかテスト期間が終わりにさしかかった時期で、お昼休みに母のつくったお弁当を食べずに学校を出た。母は母親であることにいつも懸命なひとで、その日もわたしのお弁当は完ぺきに手づくりだった。
最寄駅に着いてから、わたしは家の鍵を忘れて出かけたことに気がついた。家族はみんな出払っていて、仕方なくわたしは駅近くの図書館へ向かった。気に入っている席があって、その日もわたしはそこに座った。たぶんテストが翌日以降もまだ残っていたので、数学の教材を取り出した。そのころわたしは、数字や公式がせかいを構築する約束であることを知っているのに、そのうつくしさを本質で理解できない自分が嫌いだった。理解できないので、記憶を反復し設問のパターンで以って正解を導くような、うわずみを掬うやり方で試験をやり過ごしていた。
図書館は、それなりに新しい建物だった。だから、昼さがりの眠気とたたかいながら勉強をしていたわたしは、ぶ厚いなにかの資料と思しき本たちが本棚からゆるやかに崩れ落ちたそのときまで、外でなにかが起こったことにすら気がつかなかった。正しく言うなら、その時点ですら外で起こったことがらをひとつも想像もしていなかった。それなりに最近建築されたその図書館は、たぶんわりと厳しい耐震基準で造られていたのだと思う。わたしも、たぶん周りの人間も、なにも感じなかった。
床で散らばった本たちを見つめて、その場にいた誰もがぽかんとしていた。「揺れたのかな」「地震かな」と誰かがこっそり話すのが聞こえた。しばらくの後、席を立った者は元の位置に戻り、わたしも勉強を再開しようとした。そこへ、図書館の人間がやって来て言った。「地震がありました。閉館しますので、外へ出ていただけますか」とそのひとが言って、その場がざわついた。誰もなにが起こったのかを知らなかったし、たぶん想像もしていなかった。
わけのわからないまま外へ出た。街はいつもと変わらないように見えた。鍵を持っていないし、家に帰っても誰もいないから中に入れない。学校へ戻ろうかと思い、駅に戻ると人がたくさん居て、駅員さんが慌ただしくひとりひとりに対応していた。電車が止まり、バスですらほとんど動いていないようだった。そのころわたしの携帯電話はインターネットに繋がっていなかったので、わたしはなにが原因でこうなったのかを知るすべをもたなかった。誰かにきいてみようか、と思いながら構内をうろついていると、駅員さんのひとりに「大きな地震があったので、駅を閉めます。出て行ってください」と言われた。
駅からわたしの家までは、長くてわりと急な坂があって、ふだんはバスで通う道のりをゆっくりとのぼった。たしかもうすぐ春だったから、そんなに寒くなかったような覚えがある。30分弱かけて当時住んでいたマンションまでたどり着いたものの、わたしには家の鍵がなかった。管理人室をのぞくと管理人さんが帰り支度をしていて、「ああ、おかえりなさい」と言われた。帰ろうとするところを引き止めて申し訳ないな、と思いつつ、わたしは鍵を忘れたこと、家族が誰も家にいないこと、そして電車が止まっていてどうやら復旧のめどがたたないかもしれないこと、を伝えた。管理人さんは冷静で、すぐに警備会社に連絡してくれた。「怖かったでしょう」と言われて「はい」と答えた自分のそれが、まったく実感のこもっていないことに気がつき、もしかしてわたしだけがなにも感じなかったりしたのだろうか、と思ったりした。
小1時間ほどで警備会社のひとがやって来て、スペアキーで鍵をあけてくれた。家に入ってテレビとパソコンをつけて、ようやくわたしはなにが起こったのかを知った。どのチャンネルをまわしてもほとんど、これは現実なのだろうか、と目を疑いたくなるような映像が流れていて、インターネットには、程度のグラデーションはあれ不安や恐怖があふれていた。
地域的に被害が少なかったのか、通信はわりと早めに復旧し、家族と連絡をとった。父も母も妹も安全な場所に居て、その日は帰ってくることができない、ということだった。
ひとりきりの家で、わたしはとりあえずテレビとラジオとパソコンをまとめてつけっぱなしにした。せかいからたったひとりだけ取り残されたようなきもちだった。こんなにたいへんなことが身近で起こったのに、わたしはまさにそのときになにも感じなかったからだった。
そのころわたしは、自我というものがない子どもだったように思う。やりたいことも、するべきことも、誰かやなにかを前提にしないとはじめられなかった。それは自分以外ならべつになんでもよかった。自分のせいでなにかが起こったり変わったりすることも、なにも起こらなかったり変わらなかったりすることも、当然であるはずのそのことがこころの底から怖かった。せかいは常に誰かのもので、だからわたしは自分が断絶された一個体という存在であるという当然のことがらを認識することができなかった。わたしは、わたしの孤独を知らなかったのだ。
その日の夜、昼休みに食べなかったお弁当をひとりで食べた。テレビやラジオから流れこんでくる混沌とした景色のさなかで、それが完ぺきな「母親の手づくりのお弁当」として存在する有り様が、まるでいまの自分のようだと思った。
あの日、わたしはせかいに断絶された。手のひらに残ったのは、ただただまっさらな空っぽだった。その空っぽを抱えて、わたしは初めて「わたしは空っぽなのだ」と認識した。それはひどく恐ろしい事実で、しかし同時にわたしが初めてわたしの手によって獲得したせかいであった。
1995年生まれ、横浜出身のシンガーソングライター / ポエトリーラッパー / トラックメーカー。17歳からバンドを始め、シンセを担当。21歳、突如マイクを握り、うたう最終兵器「春ねむり」としての活動を始める。自身で全楽曲の作詞・作曲を担当している。
活動をはじめて数ヶ月後には、正規音源未発売ながらBAYCAMP2016にO.A.として出演。 また、音楽プロデューサー蔦谷好位置氏とのコラボ曲「さよならぼくのシンデレラ」の制作ではリリックと歌唱を担当。2016年10月、ファーストミニアルバム「さよなら、ユースフォビア」でデビュー。
その後、デビュー3ヶ月でワンマンライブをソールドアウトし、冬のBAYCAMP201701、WOOLY SUMMITなど、複数のフェス・サーキットイベントへ出演。
また、トラックメーカーとしての楽曲提供、ソロでの客演参加も盛んに行い、2017年3月にはリミックス作品をリリース。そして、活動開始から一年、セカンドミニアルバム「アトム・ハート・マザー」をリリース。同作品が、2017年6月度「タワレコメン」へ選出。
直後の夏には、オーディション優勝を経て「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」へ出演!(他、カオスフェス、つくばロックフェス、BAYCAMP 2017等へ出演)。さらに、8月には芋生悠主演映画「; the eternal /spring」の主題歌を担当、9月には後藤まりことの共作シングル「はろー@にゅーわーるど / とりこぼされた街から愛をこめて」をリリース。
デビューから一年の節目には、吉祥寺・武蔵野公会堂にて自身初となるホールワンマンライブを成功させた。2017年11月、資生堂の医薬品リップクリーム「モアリップ」のWeb CMに出演しリリックと歌唱を担当。12月からは3カ月連続自主企画「冬の大三角」を行い、サードワンマンライブをソールドアウト。
2018年、東京女子流(avex)「ラストロマンス」を制作(作詞作曲編曲)するなど作家としても活動開始。3月、「auひかり」のWeb CMに出演しプロレスラーの蝶野正洋と共演。ラップとダンスを担当。
これが新世代のジェイポップ、こころはロックンロール。